簾田勝俊さん/フルート/ミステルバッハ国際夏期音楽マスタークラス/オーストリア・ミステルバッハ
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
簾田勝俊さんプロフィール
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2009年夏、ミステルバッハ国際夏期音楽マスタークラス において、カーリン・レーダ教授のコースを受講。
-まずは、現在までのご経歴を教えてください。
簾田 高校1年生のときにブラスバンドに入り、フルートを始めました。でも、進学校でしたから1年で辞めたんですけど。
-では、フルートは、ご趣味として練習を重ねてきたんですか?
簾田 いえ、それからずっと遠ざかっていまして。2年半前、57歳の時ですが、キヤノンという会社を辞めて独立し、会社を興したんです。それで、自由時間が出来たものですから、数十年ぶりに再開したというわけです。レッスンにも2年半前から通っています。
-では、講習会に参加されるのは全く初めてだったんですね?
簾田 はい。日本では、新日本フィルの方のレッスンなどを受けたりしたこともありましたが、海外は始めてです。
-これまでに海外に行かれたご経験は?
簾田 はい、仕事を含めてしょっちゅう行っています。
-どこが一番思い出深かったですか?
簾田 世界中ですからね(笑)。個人的には、北欧が好きですね。写真展でも北欧の写真が多いですよ。
-今回、このミステルバッハの講習会に行きたいと思った理由は何だったんですか?
簾田 仕事もあるので、スケジュールが合ったというのが一番の理由ですね。ニューヨークで写真展があったりしましたから、しょっちゅう行ったり来たりは出来ませんし。実は、モーツァルテウムも気になったのですが、オーディションがあるということだったので諦めました。落ちたらやだなと思って(笑)。ミステルバッハはオーディションがないですし、誰でもコンサートに出られるというところが魅力でしたね。
-講習会の参加者はどのくらいでしたか?
簾田 フルートだけで15人くらいです。
-どんな人が参加されていましたか?
簾田 ほとんど学生でしたね。一番若い子は、13歳でした。コンクールで優勝して、そのご褒美として参加していたみたいですけど、かなり上手かったですね(笑)。オーストリア人がほとんどでした。僕以外は、生徒も先生も顔見知りのようでしたね。先生が普段も教えている生徒もいたみたいです。僕は、世界各地から集まってくると思っていたので 、そこは予想と少し違っていました。それはそれで良かったですけど。
-アジアの方はいらっしゃらなかったんですか?
簾田 台湾の子が二人いましたけど、その子たちもオーストリアに留学している子たちでしたね。
-スケジュールはどんな感じでしたか?
簾田 8日間の中で、1時間のレッスンが5回くらいありました。夜はアンサンブルの練習をしましたし、かなり充実していましたね。先生たちのコンサートも含めて、コンサートは3日間ありました。
-先生はどんな方でしたか?
簾田 3人いたんですが、まずカーリン・レーダー先生というウィーンの音楽院の教授がメインで教えてくれました。そして、イタリアの大学で教えてらっしゃる方、もう一人はイスラエル出身のオーストリアの大学の先生でした。それぞれ個性的で面白かったですよ。
-皆さんフレンドリーでしたか?
簾田 そうですね、とてもフレンドリーでしたよ。僕が写真を撮るのを分かっていて、写真を撮ってほしい先生とかもいましたし。いい写真をたくさん撮れたのも良かったですよ。とても美しい生徒もいたから(笑)、レッスン中なんて、ものすごくいい絵になりますし。写真家としても、なかなかそういう機会には恵まれないですからね。
-ぜひ拝見したいです!
簾田 日本でも写真展やると思いますから、見てください。
-レッスンではどんなことを教わりましたか?
簾田 今やっている教わりたい曲を中心に教えてもらうのと、コンサート用のレッスンです。コンサートにおける心構えや姿勢、気持ちのもっていき方とかを教えてもらって、非常に勉強になりました。音楽は人に聴かせるものだっていう考え方とか、やはり違うなって思いました。日本では、練習することが重要なんだっていう考え方ですからね。国民性の違いもあるでしょうが、やはり音楽の国だなと思いましたね。僕も、もともと人前で演奏するのが好きだし、人に楽しんでほしいなという思いを持っていたので、合っていましたよ。日本のレッスンでは、オーケストラに所属している子や音大を卒業した子などもいますが、積極的に前に出て行くということは、あまりしませんからね。
-日本人の国民性でしょうかね。
簾田 「オーケストラに入っていても首席はやりたくない」とか言う人もいますよ。何でだろう?みたいな(笑)。僕は、下手でも首席やらせてくれないと面白くないって思うタイプだし、コンチェルトでも「ソロやらせてくれないかな」とか(笑)。今回の講習会でも再確認しましたが、音楽っていうのは、人を気持ち良くさせるというか、そういうのも重要な要素ですので、そのために練習するのが大事なんですね。
-良い勉強になったんですね。日本の曲を演奏されたそうですが、反応はいかがでしたか?
簾田 「春の海」ね。受けましたよ。コンサート後に、この譜面くれないかって言う先生もいました。日本にも聴かせる曲があるんだ、ということを見せられたのは非常に良かったです。「来年は、絶対モーツァルトのコンチェルトをやる」って言って帰ってきたんですけど(笑)。オーストリアですから、やはりモーツァルトもやりたかったんですよ。僕は、かぶれているわけじゃないですけど、ヨーロッパは美術や芸術の面で素晴らしいものがあると思っていますので、もっと知りたかったんですよね。
-やはり、聴かせる音楽という点では、日本とは違いましたか?
簾田 練習を聴いていても、日本とは根本的に違うなって思いました。あそこの雰囲気で聴くのもまた違いますしね。初日に、先生が弾いたのを聴いた時、ああやっぱり先生は違うなって思いましたけど、その後、生徒の音を聞いても、やっぱり音の流れが違うなって感じましたね。非常に心地良いんです。そういう心地良さが音楽の原点になっているのかなって思いました。音楽ではないですけど、僕の写真もそういうものが多いんですよ、静けさを感じるような心地良いものが。
-レッスンは、基本的にドイツ語だったんですか?
簾田 僕の個人レッスンは、ほとんど英語でしたね。他の生徒はドイツ語が多かったですけど。イタリアの先生は、英語のほうが得意だったので英語でしたが、基本的に二人の先生はドイツ語でしたね。
-言葉のほうは大丈夫だったんですね。
簾田 ええ、英語は。普段使っていますから。
-練習はどこででされていたんですか?
簾田 練習室は特になかったんです。自分の部屋がかなり広いのでそこでやったり、先生のレッスン室でやったりました。夏休みの間のドミトリーのような所でしたので、どこで吹いてもOKだったんです。
-自由で良かったですね。どのくらい練習しましたか?
簾田 僕はそんな長くないです、2時間くらいでしょうか。他の子は、朝から晩までやっていましたね。朝8時っていうと音が聞えてきましたから。
-レッスンや練習の時間以外は、何をされていましたか?
簾田 レッスン以外は、写真を撮っていました。僕は、オーストリアやドイツの田舎の風景が好きなので。非常にいい写真がたくさん撮れましたよ。歴史的な建築物がたくさんありますからね。
-街の様子はいかがでしたか?治安は良いほうですか?
簾田 オーストリアやドイツは、いろんなところに何十回と行っていますが、怖いことはないですね。ただ、若い女の子たちは分かりませんけど。ナイロビなんかに比べたら安全ですよ(笑)。オーストリアは夜9時にもなれば、レストランなども閉まってしまいますから。イタリアやギリシャは夜2時くらいまでは大騒ぎしてますけど。
-街の人の様子はどんな感じですか?
簾田 オーストリアやドイツは、基本的には真面目な人が多いですよ。日本みたいに繁華街が乱れているとかそういうのはないですね。そして、特にミステルバッハは田舎なので、夜にはほとんど人がいませんよ。スーパーなども6時には閉まってしまうような所ですから。ほとんど音楽しかやることがないっていう感じですね。
-音楽を集中して勉強したい人にはピッタリですね。
簾田 みんな音楽が好きですよね。参加者は小さい頃から音楽をやっている子ばっかりだから。僕くらいですよ(笑)。でも、行ってよかったと思います。まあ、海外にあまり行ったことのないような男性だったら、少しキツイかもしれませんが。孤独になっちゃうかもしれないから(笑)。僕は、音楽が好きな人なら、もっと来たらいいのにって思いますけど。
-どこかに遊びに行かれたりはしなかったんですか?
簾田 行きませんでしたね。その1週間くらいは音楽漬けでいたいと思ってましたから、良かったですよ。
-宿泊先は、寮だったんですね。
簾田 寮みたいな感じですね。いろいろな合宿の人も使うのでしょうか、ほとんど誰もいなかったです。ご飯も、簡単な朝食が出るくらいですから。
-管理人さんはいらっしゃらなかったんですか?
簾田 いなかったです。カーリン・レーダー先生と、彼女のご主人が中心になって面倒を見てくれたので、非常にこじんまりとした感じでしたよ。
-カーリンレーダー先生の対応はいかがでしたか?
簾田 非常に良かったですよ。ご主人も素晴らしい方でしたね。クラリネットとサックスの間みたいな楽器でアンサンブルに参加してくれたり。演出が好きな方で、野外コンサートのときのライティングなどは、素晴らしかったですよ。僕が持っていった写真データを使って、日本の曲のときは日本の写真を壁に投影したりして。観客はワインを飲みながら、それを聴くっていう雰囲気を作ってくれたりしました。夫妻が住んでいるところが車で10分くらいのところらしく、いろいろ世話を焼いてくれて楽しかったですよ。
-宿泊先から講習会場へは、どうやって移動していたんですか?
簾田 一緒の場所だったんです。コンサートだけがシティホールだったんですよ。
-ご飯は、どうされていたんですか?
簾田 朝はパンとハムとチーズ、あとは果物がちょっとある程度です。昼は、みんなでピザを取ってつまんだりという感じでした。夜は、アンサンブルの練習を毎晩6時から10時くらいまでやっていますから、その後みんなで飲みに行ったりしました。食べるものはソーセージくらいしかないんですけどね。質素そのものです。
-外食でも安く上がるんですね。
簾田 ええ。ミステルバッハには、日本のように何千円も何万円もするような食事をする場所はないですからね。まあ、千円も出せば腹いっぱいですよ。
-今回は、オーストリアの参加者が多かったということですが、海外の人と上手く付き合うコツはありますか?
簾田 僕は、写真の話がありますからね。相手も聞きたがりますし、僕はあまり苦労はしないですね。
-簾田さんは、積極的に話されるほうですか?
簾田 そうでもないですよ。向こうから必要なことを話しかけてきて、そこから話題になっていくという感じですかね。イタリア男みたいに、女の子に声を掛けまくるようなことはしないですよ(笑)。若い学生ばかりでしたが、ひとり中年の女性もいらして、その方も良く話しかけてきましたね。
-趣味的なものがあると、話しやすいんでしょうね。
簾田 そうですね。日本の中高年の男性で、留学される方はあまりいらっしゃらないでしょうけど。
-それがけっこういらっしゃるんですよ! ジャズピアノとかが割と多いですね。クラシックではバイオリンの方とかいらっしゃいますよ。
簾田 そうなんですか。フルートは全体的に女の子が多いですけどね。
-さて、留学中に何か困ったことはありましたか?
簾田 全然、何もなかったです。僕は何十回と行っていますが、ドイツ、オーストリア、フランスなどでは、今まで怖い思いをしたことは全くありません。今回も、ローマから飛行機が1時間半くらい遅れたんですけど、ドライバーが待っててくれましたし。真面目なお国柄だなと思いましたよ。
-今回講習会に参加して、良かったと思う点は何ですか?
簾田 それはもう、最後のコンサートですね。若い子たちが、みんなで親指を突き上げて、日本語で「良かった!良かった!」って言ってくれたことです。日本人ピアニストの渡辺さんから教わった言葉らしいんですけどね。アンコールではないのですが、演奏後、もう一回舞台に立って拍手を浴びたのが嬉しかったですね。
-それは素晴らしいですね!日本人が日本の曲を演奏したのも良かったのでしょうかね。
簾田 一番感激してくれたのは、オーストリアの大学から来ていた先生ですね。カーリン・レーダー先生が忙しくて来れない時、舞台のリハを見てくれたんですが、演奏後にハグをしてくれたりして。確かに、「春の海」をフルートで演奏するのとても良かったですよ。日本の誇る名曲だなって思います。
-現地の方は、日本の曲を聴く機会もなかなかないでしょうからね。
簾田 カーリン・レーダー先生が、「絶対受けるから、この曲を演奏しなさい」っておっしゃって。でも、日本の曲とはいえ、勉強になりましたよ。やはり人に聴かせる音楽としての教え方ですよね、楽譜どおりに弾きなさいというのではなく。そういう教わり方をしたことはなかったので、勉強になりました。
-教え方も国によって違うんですね。
簾田 やはり、あれだけのものを作り出す国ですものね。僕は、クラシックの専門家ではないですが、クラシック音楽って良く出来ているなって思いますよ。僕はずっと技術屋として、もの作りをしてきましたから、音楽も「どうしてこんなものが作れるんだろう」って、もの作りの観点からも感動してしまったんですよね。そういう面でも、行って感じられて良かったと思います。僕は、やはり感動から物事が始まるって思っていますから。
-ブログを拝見しても、良い経験をされたというのが伝わってきました。では、留学に参加してみて、自分が変わったなって思うことはありますか?
簾田 この年だから簡単には変わりませんが(笑)、先ほども言ったように、音楽に対する見方は変わりました。本質に近いものを感じられて良かったです。その環境にいないと聴こえない音っていうのもありますから。それと、音楽や絵画、写真でもそうですが、人に感動を与えることが大事だなって、今まで以上に感じました。ヨーロッパでは、どんな小さい街でも、コンサートをやっていますから、そういう感動に触れる機会が非常に多いでしょう。日本ではなかなかないですからね。
-音楽に対する姿勢は、日本とは違いますか?
簾田 ヨーロッパでは、音楽そのものを学ぶことが大事だっていうか、本質的なものを勉強する考え方ですが、日本は、ロビー活動が重要視されるような感じが、少なからずありますからね。
-では、今後留学する人へアドバイスをお願いします。
簾田 積極的に行ったほうがいいと思います。
-「行きたいけど行けない」って言っている人ほど、行ったほうがいいですよね。
簾田 僕は、長年小さいオーケストラに入っていますが、向こうのアンサンブルの指導を受けてみて、やはり全然違うなって思いましたからね。カーリン・レーダー先生のご主人を見てても思いました。アンサンブルのとらえ方や、体の使い方までも違いますから。今回、垣間見ただけですが、本気でやるんだったら、海外で勉強することはいいことだと思いますよ。
-では、簾田さんの今後の音楽活動について教えてください。
簾田 音楽でメシを食おうとは思っていませんけど(笑)、機会を作ってできるだけ演奏したいです。すぐ近くに信州国際音楽村っていうのがあって、そこの屋外の木の舞台に上がって、一人で演奏したりとかするんですが、観客が一人二人で手を叩いてくれるだけでも嬉しいですからね 。この前も外で吹いてたら、「おじさんすごいね、フルート吹いているの?」って声かけられたりして。田舎ですから、普段あまり聞く機会がないと思うんですよ。なので、ここで小さい子どもたちにフルートを教えたりもしたいとも思いますね。本当は、犬がいなければ、2年や3年ヨーロッパに行ってみたいんですけど。スロバキアの大学一年で卒業できるとかいうプランもあるようなので、そういうのいいかなって思うんですよ。1年くらいは音楽の専門の勉強をしたいなって思います。でも、犬がかわいそうですからね(笑)。
-せっかく見せる音楽を学ばれたので、演奏する機会がたくさんあるといいですね。
簾田 若い子たちは一生懸命音楽をやっていますけど、もっともっと人前で演奏するということをやったらいいと思いますよ。 ・・・あなたは音楽をやっていたんですか?
-私は中学、高校とピアノを専門で学んでいましたが、才能がなくって・・・。
簾田 そうですか。でも、若いときに、自分の才能の限界は決めちゃいけないって思いますよ。僕も昔は、才能が必要だと思っていたんですが、今は、目標意識を高く持つことだなって、そういう気がします。僕の場合は音楽専門でやってきたわけではないからかもしれませんが、「音楽も出来る」っていうのが、とても嬉しいんですよ。少しでもやっていて良かったなって思いますから。才能のある人っていうのは、必ずいるんでしょうけど、音楽って一生懸命やれば、誰でも人に感動を伝えられると思いますよ。
-なんだか、とても励まされました!今日は本当にありがとうございました。