神田望美さん/フルート/王立モンス音楽院/ベルギー・モンス

神田望美さん プロフィール

音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。

 

ベルギー王立モンス音楽院・ベルギー王立ブリュッセル音楽院神田望美さん
神田望美さん

フェリス女学院大学音楽学部卒。ベルギー王立モンス音楽院卒業。現在ベルギー王立ブリュッセル音楽院教職コース在中。


—  今までの略歴を教えていただけますか?

神田 フルートをきちんと始めたのは16歳の頃、高校一年の終わりからです。それからフェリス女学院大学音楽学部に入り、その後ベルギー王立モンス音楽院に留学して去年卒業しました。

—  フルートを始められたきっかけは?

神田 小学校のブラスバンドにフルートがあって、かっこいいと思って小学校五年生の時から始めました。でも、きちんと学ばなかったのでそのまま卒業と同時にやめてしまいました。ブラスバンドが盛んな高校だったのでブラスバンド部に入って、一年目はホルンを吹いていました。でも、フルートで音大に行きたいと思うようになったのでフルートを本格的にやるようになりました。

—  フェリスをご卒業してすぐにベルギーに行かれたのですか?

神田 そうですね。在学中からずっと考えていたので。

—  在学中にベルギーの学校の先生とお知りあいになったのですか?

神田 直接先生は知りませんでした。ただお名前だけは知っていて、こちらに来てからコンタクトを取りました。

—  ベルギーに留学したきっかけはありますか?

神田 もともと海外交流や言語にとても興味がありました。私は、外国の人たちに囲まれて外国の中で暮らしたいと当時は思っていたので、日本人がたくさんいない所にしようと考えました。ベルギーはそんなに日本ではメジャーではないのでベルギーで先生を探してみたらいい先生がいらしたので、彼のところに行こうと決めました。

—  実際にベルギーはどうですか?日本人はそんなに多くないですか?

神田 日本人はいますけどそんなに多くはないですね。ブリュッセルには同じフランス語圏の学校でもブリュッセル音楽院、リエージュ音楽院、モンス音楽院と三つあるのですが私が行っていたモンス音楽院は、日本人が一番少なくて数人しかいませんでした。ピアノで二人、フルートが私一人でした。クラリネットとギターに一人いました。

—  学生は現地の人がほとんどですか?

神田 現地の学生と先生によっては留学生がいます。クラリネットの先生が有名な先生だったので、外国人の子がいっぱい来ていました。ピアノも歌もたまに留学生がいます。ギターの先生も有名な人で1-2名の日本人の方がいました。

—  授業は何語ですか?

神田 授業は全部フランス語です。レッスンは先生が英語ということもありますが、一般の音楽史などの講義の授業は全部フランス語でした。

—  フランス語はずっと勉強されていたのですか?

神田 大学の授業で少しやった程度です。留学する前の半年位プライベートレッスンを受けました。あとはこちらに来てから一年半位語学学校に通いました。

—  語学学校は音楽院に入る前ですか?

神田 私は6月にベルギーに来たので2ヶ月間の夏休みに語学集中講義を受講しました。音楽院が始まってからは音楽院と平行して語学の夜コース、週2回の昼コースに行っていました。

—  そうすると最初の音楽院のレッスンはいかがでしたか?

神田 全然分からなかったですね(笑)。先生とは英語でやりとりしていたので問題はなかったのですけれど、フランス語の普通の授業は作曲家の名前位しか分からなかった。全然分からなかったです(笑)。

—  大変ですよね。

神田 眠くなっちゃう(笑)。

—  そういう分からない状況からどうやって乗り切っていかれましたか?

神田 一年目は本当に先生が優しかったです。一般の大学に比べたら話せなくても、まあまあみたいなところが音楽院にはありました。外国人の生徒には追試をしてくれるなど親切なことをしてくれたのでどうにか乗り越えることができました(笑)。

—  音楽院はどのようなシステムですか?

神田 音楽院には高等課程というのがあって最初はそれに入ります。高等課程では2年目から卒業の資格試験を受けることができ、4年目までにいつでも「私は今年資格をとります」と宣言して資格試験を受けることができます。私は4年間通って卒業し、今年は教職コースに入りました。教職コースは二年間で、音楽院のオプション授業みたいなものです。

—  「卒業の資格試験をとる」という宣言をするとどうなるのですか?

神田 「資格をとる」というと試験の曲数が変わります。普通の試験では4曲なのですが資格試験だと12曲になります。

—  試験は厳しいですか?

神田 そうですね。プルミエールプリ(一等賞)という高等課程の前のものだと、一回落ちても五回までチャレンジできるようになっているようです。しかし、高等課程では一回落ちたらそれでおしまいとだそうです。

—  それは怖いですね。

神田 私は十二曲準備することに集中していたので落ちるという怖さを考えていなかったのですが、あとで落ちた人がいると聞いてびっくりしました。あとで聞いてよかったと思っています。先に聞いていたら落ちる事があるという恐怖にとらわれていました。

—  試験は公開で行われるのですか?

神田 公開です。コンサート形式です。

—  教職はどこで勉強されているのですか?

神田 教職コースはブリュッセル音楽院で受講しています。以前はブリュッセルからモンス音楽院まで通っていましたが、ブリュッセル音楽院の方が近いので教職コースはブリュッセル音楽院で受講することになりました。

—  フルートの教職ですか?

神田 コンセトヴァトワール(音楽院)に入る前の音楽学校(公立の学校やヤマハとはまたちょっと違う)があるのですがそういう所で教えるための教職免許です。

—  その教職免許があればいろいろなところで教えられるということですね。

神田 そうですね。ブリュッセルだと、区に一つ音楽学校があります。他の市でも町とか村に一つ程度は音楽学校があるみたいです。

—  ベルギーの子供達はどうですか?

神田 一回産休の代理人をやったことがあるのですが日本の子とは違います。本当によくしゃべります。日本の子だとハイハイと聞いていると思うのですが、ベルギーの子は自分の意見もどんどん言ってきます。音楽的には日本の子供の方が一般的に練習するというか、親が練習させるところがあるみたいです。こちらの子はあまり練習してこないようです。きちんと親御さんが子供を見ているかどうかだと思いますけど、大きくなっても音楽を続けている子は楽しさが先行している感じですね。日本の子だとやっぱり音大受験など大変さの方が先行してくる気がしますが、こちらの子は楽しそうにやっている気がします。

—  それは土壌の違いがあるのですか?

神田 そうですね。それにそんなに入学試験そのものは難しいわけではないからだとも思います。

—  音楽院の試験はどのようなものですか?

神田 音楽院の試験は最初から曲を二曲くらい提出しておきます。エチュードの曲と、それ以外を合わせて三、四曲準備します。当日、試験官より曲を指定されてエチュード一曲と曲一曲を吹きます。丸々じゃない場合もありますし、長い場合もあります。私はそんなにたくさん吹かなかったですね。

—  筆記試験はいかがですか?

神田 筆記は無かったですね。高等課程前の段階だとソルフェージュなどもあるみたいですが高等課程の試験では筆記はありませんでした。

—  ベルギーのビザ申請は大変ですか?

神田 何度か大使館に行く手間はありましたが書類さえ準備すればそんなに大変なことはなかったです。

—  学校の入学許可証は必要ですか?

神田 学校の入学許可証、戸籍謄本などの類を揃えれば大丈夫でした。私は六月くらいにベルギーに行っていたので入学許可証はありませんでした。九月に入学試験がありすぐに入学なので音楽院の試験を受けてもいいよという紙を学校から送ってもらいました。そして仮ビザを出してもらいました。学校に入るとベルギーの区役所から滞在許可証がもらえるのですが、それはそんなに苦労なく取得出来ました。フランスにいる友人が半年経ってもまだ滞在許可証が来ないという話を聞いたことがあるのですが、私はそんなことは全然ありませんでした。朝早くから並ぶのが大変ですが、一年に一回なので我慢すれば全く問題なく出してもらえます。実はベルギーに来た時、保証人が必要でした。その当時、私はよく分かっていなかったのですが、先生が一緒に役所に来てくれて保証人になってくれたみたいです。後々、書類をよく読んだらそういうことでした。当時は良く分かっていなかったのですが、凄いいい先生でした。

—  凄いですね。

神田 本当に先生には面倒を良く見ていただきました。ベルギーの高等課程に入れたのも、先生が書類を全部やってくださったからです。

—  学校はどのような雰囲気でしたか?

神田 モンス音楽院は建物が非常に古く、雰囲気はいかにもヨーロッパの学校の雰囲気を持っています。先生によって生徒さんの雰囲気は全然違っています。ギターの先生は有名だったのでたくさん生徒がいました。クラリネットやピアノ、歌も同じです。私の先生も有名なのでたくさんの生徒さんがいました。例えばオーボエやファゴットは地元の子が中心でした。雰囲気は割とのんびりした感じだと思います。

—  競い合う感じではないのですか?

神田 多少は競い合いますが、ギスギスしているのが外に見える感じではないです。全体としてのんびりした感じです。

—  一クラス大体何人くらいですか?

神田 クラス数は先生によって全然違います。16人いるクラスもあれば、2名というクラスもありました。フルートは大体15人くらいだったと思います。全部で九年生になっているのですが、一学年13人〜15人くらいだと思います。

—  フルート科の先生はお一人?

神田 一人の先生とアシスタントです。

—  そうすると年間三、四人しか入らないということですね。

神田 そうですね。ベルギーは一千万人しかいないので、外国からやってこない限りは割とゆとりはあります。

—  日本とベルギーの学校で大きく違う点はありますか?

神田 カリキュラムで違う点は、室内楽の授業が日本だとない大学もありますがこちらは室内楽科の教授もいます。私の大学では室内楽は、半年間で一週間に一日90分の授業が一枠ありましたが公開授業でした。こちらでは室内楽の教授と何人かのアシスタントがいて、室内楽もレッスンです。室内楽の先生のところに行って室内楽の授業を受けます。試験も普通の試験と同様何曲か準備します(通常五曲くらい)。日本人が室内楽のクラスに行くと始めは他の楽器と合わせることを知らないというか、馬車馬的に演奏してしまう部分があるようです。いかにして他の音に混ぜるかという室内楽をベルギーに来て学んだと思います。

—  いろいろな楽器と行いますか?

神田 一年目は、チェロとピアノとフルートの曲、それにビオラとフルートの曲、ビオラとフルートとコントラバスの曲などいろいろやりましたね。

—  先生がだれだれと組みなさいと決めるのですか?

神田 室内楽の先生のところに行ってどんな曲をやるのかということで決めていきます。

—  一番違うのは室内楽ですか?

神田 室内楽は相当違いますね。あとは学校の雰囲気が全然違います。私の時の授業は音楽史と分析と和声だけだったのですが、今はいろいろな科目を取らなくてはいけなくなりました。全部フランス語なので、それが結構大変だそうです。和声もすごい違いますね。私の受けた和声の試験はかなり厳しく五時間部屋に缶詰にされてしまいました。日本だと90分の枠の授業でぽんと入っているだけでしたがベルギーでは個人レッスンか少人数制で出来るようになるまでやらされます。

—  なぜそこまでやるのですか?

神田 ピアノだと即興が出来るようになるようです。管の場合は下級コースだけでいいのですが、バイオリンは中級コースまで、ピアノは上級コースまでやらないといけません。上級コースになると寝泊りしてレッスンや試験受けたりするようです。

—  合宿状態ですね。

神田 合宿状態で試験を受ける位ごく徹底的なものになっています。

—  全然違いますね。

神田 試験が本当に厳しいところがかなり違います。日本は普段も厳しいけど、試験も同じような厳しさで通過していく感じですが、こちらは試験がいきなり厳しいです。

—  日常のレッスンはそんなの厳しくない?

神田 先生によって違いますけれども、普段なんとなくのんびりした雰囲気が流れているのに試験だけ非常に厳しいという感じです。一年目はのんびりしていたら、やられたという感じでした。

—  一年目は結構単位が取れないのですか?

神田 そうなんです。和声落としちゃいました。音楽史はそれでも追試で何とかなったのですけど、分析は全然だめで全く手が動かない。日本だと先生が説明してそこが試験に出る、という感じですが、こちらだといきなり全然違う曲が試験に出てきたりします。質問事項もなくて、「その曲について書きなさい」で終わりです。自分で分析できないと駄目なんですね。

—  ベルギーに行く場合この辺のことはきちんとやっておかないといけないでしょうね。

神田 基本がきちんと分かっていればどうにかなると思いますが、和声が分かっていると結構いいこともあります。日本とは違うという事を試験前に分かっておくと良いとは思います。のんびりした雰囲気に飲み込まれて、そのままのんびりしているのは実は自分だけだったという感じで終わってしまいます。

—  周りは結構分かっているわけですね?

神田 そうですね。周りの方は、試験は大変だというのが分かっているみたいです。

—  学校の一日のスケジュールは?

神田 私の時は授業数がそんなになかったので週三回モンス音楽院に行っていました。一日が室内楽のレッスン、一日は和声や音楽史、室内楽のレッスンを兼ねてやっていました。もう一日がレッスンでした。他の日は家にいて練習をしていました。今の学生は授業数が増えたのでほとんど毎日学校があるようです。授業がある時は学校に行って、授業がないときは練習室を借りて練習したり、家に帰って練習していました。

—  学校の練習は何時まで出来るのですか?

神田 ブリュッセル音楽院は九時半までです。でもモンス音楽院だと早くしまります。モンス音楽院に行く場合は遅くまで練習できる家を借りることが大事ですが、ブリュッセル音楽院だと昼間家で吹ければ夜は学校で練習できますね。

—  学校のシステムはいつから変わったのですか?

神田 私が入った次の年から大学と同じように変わりました。フランスと同じで、昔は大学ではなくて高等専門学校のような感じでした。今は大学、大学院、博士課程というように他の国とほとんど同じなった分、哲学や社会学などの一般教養もとらないといけなくなりました。以前は学費も安かったです。

—  ちなみにどの程度ですか?

神田 私が入った時は外国人で三百ユーロ程度でしたが、今は千〜千五百ユーロ位してしまうと思います。EUの人たちは三百〜四百ユーロ程度です。

—  神田さんはシステムが変わる前に音楽院に入っていたので、その後もずっと三百ユーロだったんですね。

神田 そうですね。日本の学費を考えたらベルギーの授業料は安いのですが、自分の料金と比較するとやっぱり高いと思います。

—  日ごろ練習はどこでなさっていますか?

神田 学校で練習室が見つかると学校で練習しますが、主には家です。1-2年目は先生がご自分の自宅の前にアパートを持っていらして、そこに入れてくださったので練習は問題なく出来ました。3年目は音大生専門のアパートに引っ越ししました。そこも練習出来ました。

—  音大生専用のアパートがあるんですね。

神田 凄く少ないですけどあります。学生用というとシェアでお風呂が共同になりますが、練習できるところは結構あるようです。

—  先生がアパートまで用意してくれるのは凄いですね。

神田 先生がたまたま前の年にアパートを買ってちょうど修理が終了した頃だったのです。「ここでいい?」みたいな感じで言ってくれました。私もどうやってアパートを探そうと思っていたので、「ここでいいです」と言いました。

—  ベルギーに到着後すぐはどこに滞在していたのですか?

神田 二週間程度ですが、ホテルです。その後先生のアパートに移りました。

—  アパートでの練習は何時までOKですか?

神田 法律では十時まで音を出して良いらしいです。ただ、大家さんによっては六時までなど時間が区切られる事はあります。万が一隣の家から楽器がうるさいと言われても法律上は楽器をやっている側の勝ちらしいです。

—  音のことで怒鳴り込まれたことはありますか?

神田 先生のアパートに住んでいた頃に一回だけあります。一つ上の階の人がアフガニスタンの人で、音楽と関係ない方でした。その方は始め音楽が好きだと言っていたのですが、ある日「六時くらいにはやめて欲しい」と言われました。困ったなと思って先生に相談したら、先生が大家なので「彼女は音大生だから六時にはやめられないんだよ」とその方に言ってくださいました。大家さんに言われたらどうしようもないので「分かりました」となりました。怒鳴り込まれたわけではないですが、もう一度そう言われると吹き辛い部分もあるので、先生に言って「来年引っ越します」となりました。その後引っ越したのですが、それ以後は他の人に特に音のことで注意されたことはないですね。

—  練習は一日何時間くらいするのですか?

神田 日によって違いましたけれども、学生の時だと気力があれば大体五時間くらい吹いていました。試験で十二曲やらなければならないときは六時間くらい吹かないと間に合いませんでした。日本にいた時はがむしゃらにやれという感じでしたが、ベルギーに来てからは要領を得て練習しなさいと言われました。先生は演奏会や試演会を準備してくれて、人前でどんどん吹いていくことによって内面に潜んでいる出来ない部分を自分自身で発見して練習していく方が効率がいいということでした。試演会といっても大々的な感じではなくて、次のレッスンは近所の人を集めておくからみたいな感じでした(笑)。

—  そうやって人前で演奏する場数を踏んでいくと度胸もついていきますよね。

神田 緊張はするけど、緊張しても指が動くようになると思います。特に試験前などどうしても緊張で指が動かなくなってしまうのですが、そういうことをなくすためにガンガン演奏会をしていきました。

—  コンサートは大体どのくらいの頻度で行っていますか?

神田 面倒見の良い先生だと試験前に小さい試演会から大きな支援会でだいたい五〜六回程度あります。ベルギーの方は全然知らない人でも、「あら若い子の演奏を聞きたいわ」と言って気軽に来てくださったりします。

—  学校でコンサートをやるのですか?

神田 学校や先生の家、それにどこか借りて下さることもあります。

—  家というのは凄いですね(笑)。

神田 そうですね。ホーム演奏会みたいです(笑)。

—  ブリュッセルの生活費はどの程度ですか?

神田 家賃はシェアだと二百ユーロ程度からありますが、その料金だと家で練習できない場合が多いです。音楽の学生は、地区によりますが三百ユーロは最低で、五百ユーロ払えば結構いいアパートが借りられると思います。広くてキッチンもある場所で練習も可能です。

—  治安の悪い場所はありますか?

神田 南駅という駅があるのですけど、そこの周りは治安が悪いです。移民地区なので治安の良くない所で有名です。でもそこにはピアノ屋さんが一軒あって、そこの隣のアパートが音大生用です。シェアで二百五十ユーロでした。

—  生活費、食費はどうですか?

神田 食費は日本に比べたら安いです。月に家賃を入れて全部で五百ユーロ程度で生活できると思います。

—  ベルギー自体の物価が安いのですか?

神田 物価は高くないです。レストランは税金(21%)が高いので日本と同じくらい取られます。食品は税金が6%なので、そんなに差はないと思います。

—  ベルギーの音楽業界のツテはどのように作っていくのですか?

神田 これは本当に人格によると思います。どこかの演奏会でいろいろな方と出会い、コミュニケーションを取っていくことがよくあります。やはり社交性や積極性、あとは感じがいい人間であることが重要なことです。

—  そういうふうにしているとお仕事が入ってくるのですか?

神田 そうですね。好かれるのが重要というと聞こえが悪いのですが、好かれないような性格だとやっぱりどこ行っても難しいと思います。たまに付き合っていくのに難しいタイプの方がいます。そのような方だと自然とみんな離れていきます。すごく上手くていい経歴もあるのだけれども意外と演奏会がないという方がいますね。

—  では誰にでもチャンスはあるのですね。

神田 よく言えば割と誰にでもチャンスがあります。

—  ベルギーの人たちとうまく付き合うコツはありますか?

神田 おしゃべりが得意だといいと思います(笑)。本当に良くしゃべるので。社交性は本当あったほうがいいと思います。それに日本のことをよく聞かれるので日本の事は知っているといいと思います。

—  演奏うんぬんよりも本当に人柄が結構大きいのですね。

神田 演奏が全然駄目ならもちろん全然駄目だと思いますが、きちんと演奏が出来ていればチャンスはあると思います。

—  留学して良かったと思える瞬間はありますか?

神田 演奏会をやる時は聴衆が暖かく、本当に音楽を楽しみに来ていると感じます。日本だと演奏会は何か観察しに行くみたいなところがあったり、有名な方が来たりすると、見に行くという雰囲気があると思うのです。ベルギーでは別にそういう感じでもなく、純粋に音楽を聞きに来て楽しんでいます。そういう時には、「ああ良かったな」と思います。それにいろいろな国の人に出会えて、今まで自分の知らなかった世界を知った時にこういう世界もあるんだと思う時に留学して良かったと思いますね。

—  ベルギー人だけではないのですね。

神田 例えば隣人さんがアフガニスタン人だったので始めの頃はアフガニスタンの話を聞いたり、ギリシャ人からはギリシャの話、トルコ人からはトルコの話、イスラエル人にはイスラエルの話などいろいろ聞きました。また、ベルギー社会の表面から見ただけでは分からないことを聞いて、自分の心の持ちようも変わりました。そういう部分から音楽が変わるとこともあると思っています。

—  留学というのは音楽以外の意義がたくさんありますよね。

神田 日本の試験では、出来なかったら駄目、出来なかったら終わり、という感じでした。でもベルギーでは自分自身が出来るかどうかを自分自身に試して楽しんでいるところがあります。そういう心の持ちようが日本とベルギーでは随分違うと思います。出来なかったら出来なかったで「いやー残念だったね。じゃ次回」という、気軽といえば気軽な心の持ちようがあります。

—  そういったところもご自身の中で影響されてきましたか?

神田 そういう人たちに囲まれているので影響されますね。変わらない部分もあるし、変われない部分もあるし、影響受ける部分もあるしという事でしょうか。

—  どういった点が変わったと思いますか?

神田 一番変わった点は、一度出来なかったら終わりという考え方ではなくなったことです。前より人生を楽しむという気もあります。私の場合、日本の先生も追い込むようなタイプの先生ではなかったので、そういう意味では自由にやらせてもらっていました。しかしベルギーでは本当に自由に出来ると思います。私がこういう事をやりたいと言った時に、日本だと私の先生と周りの子だけが頑張ってね、という感じでしたがベルギーでは全体的にみんな聞いてくれます。曲目についてもスタンダードをやらなければならないというのもありません。各自がやりたいという事を追求できるシチュエーションにあります。こういうことをしなければいけないというのがあまり無いのです。

—  逆に自分のやりたいことがないとかなり大変ということですよね。

神田 ベルギーでも特にやりたいことがなくて淡々と過ごしている人がいないわけでもないんです。でも、やりたいと思っている人がそういう人たちに飲み込まれていくということは日本より少ないんじゃないかなと思います。

—  ご留学してご自分が何か成長したと思う点はありますか?

神田 言葉は成長しましたね。それに前より言いたいことが言えるようになったと思います。ベルギーでは本当にきちんと言葉で伝えないと駄目なのです。そういう意味では隠さないで物事を言えるようにするのは私にとって成長という気がします。それに前はこうじゃないと駄目だと思っていた部分が、そうじゃない生き方もあるんだと視野が広がりましたね。演奏面では、舞台に立った自分がどう相手に印象を与えるかをよく考えるようになりました。日本では演奏面だけですが、ベルギーでは演奏面だけではなく舞台の立ち方から考えます。

—  今後はどういった進路をお考えですか?

神田 演奏活動もやっているのですが、それと並行して教えることをやっていこうと思っています。オーケストラに入るチャンスがあれば入りたいと思っています。

—  オーケストラに入る事は結構大変ですか?

神田 大変ですね。一席の空きに対して、百人くらい来るので大変ですね。ベルギーでは室内楽が本当に盛んなので、アンサンブルを組んでやっていくことも可能です。ちょっと大きめなアンサンブルやったり、小さなアンサンブルやったりしていろいろ楽しめると思います。

—  これから留学する人にアドバイスがあったらお願いします。

神田 言葉は何かしらできたほうがいいと思います。留学先をまだ決めてない場合はとりあえず英語を勉強しておいた方がいいと思います。ベルギーの人は言わないと何もないのと同じ意味になってしまいます。日本の場合のように言わなくても察するという能力をみんな持ってはいるのですが、察する能力が日本人よりは低いみたいです。きちんと口で言わないと何もないと思われる部分があります。何か言うためには語学が助けになると思います。私はこう思う、思わない、私はこうしたい、こうしたくないなど単純なことでいいのですが、そういうのが言えると言えないでは他人が自分を見る眼が変わります。音楽留学だと何もしゃべれないで留学される場合も多いとは思いますが、しゃべれた方がいいと思います。

—  結構その点で苦労されました?

神田 モンス音楽院では英語をしゃべる人がそんなにいませんでした。私は一応話をしていたつもりだったのですが、当時ノゾミは何を言っていたかよく分からなかったと言われます。英語が話せたので先生とコミュニケーションも取れたし、友人とコミュニケーションが取れたので、それで少し助かっていました。言葉が通じないと恐い部分もありますし、ストレスになったりすることも多いと思います。小さな事でストレスになると演奏に使うエネルギーも少なくなると思います。言葉そのものを習うのは楽器を習うのに似ているので言葉は話せた方がいいと思います。

—  ありがとうございました
 

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